みけの物語カフェ

いろんなお話を公開しています。お暇なときにでも…。

0061「選ばない女」

「選(えら)ばない女(おんな)」(2008/12/16)

 僕(ぼく)の彼女(かのじょ)は容姿端麗(ようしたんれい)で、申(もう)し分(ぶん)のない女性(じょせい)だった。ただ、ひとつだけ欠点(けってん)をあげると…。
「どれにしよう。迷(まよ)っちゃうわ。ねえ、どれが良(い)いと思(おも)う」
「何(なん)でもいいじゃない。早(はや)く、頼(たの)もうよ」
「ねえ、あなたはどれにしたの?」「僕(ぼく)は、やっぱりこれかな」
「ええ、それなの。でも、それって美味(おい)しいのかなぁ」
「前(まえ)に食(た)べたことあるけど、美味(おい)しかったよ」
「そうなんだ。私(わたし)…、どうしようかな。ねえ、あなたが決(き)めてよ」
「ええ…、そうだな。これがいいんじゃないかな。ヘルシーそうだし」
「そお? でも私(わたし)は、どっちかって言(い)うと、こっちかな」
「じゃあ、そっちにすればいいじゃない。注文(ちゅうもん)しようよ」
「ちょっと待(ま)ってよ。もう少(すこ)し考(かんが)えさせて」
「そんなに考(かんが)え込(こ)まなくても…。先(さき)に頼(たの)んじゃうよ」
「分(わ)かったわよ。じゃあ、あなたが決(き)めた、ヘルシーそうなのでいいわ」
 今日(きょう)も楽(たの)しく食事(しょくじ)をしてたはずなのに、店(みせ)を出(で)たところで彼女(かのじょ)はぽつりとつぶやいた。
「他(ほか)のにすればよかった。あんまり美味(おい)しくなかったわ。あなたが選(えら)んだのよ。次(つぎ)は絶対(ぜったい)に、美味(おい)しいお店(みせ)に連(つ)れてってよね」
 彼女(かのじょ)の好(この)みが今(いま)ひとつ把握(はあく)できなくて…。僕(ぼく)はどうすればいいのでしょうか?
<つぶやき>私(わたし)にそんなこと言(い)われても…。彼女(かのじょ)に決(き)めさせるのが一番(いちばん)だと思(おも)いますけど。
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0004「いつか、あの場所で…」

「いつか、あの場所(ばしょ)で…」(2009/05/07)

 「大空(おおぞら)に舞(ま)え、鯉(こい)のぼり」1
 いつも引(ひ)っ越(こ)してばかりで、私(わたし)には故郷(ふるさと)と呼(よ)べるような場所(ばしょ)はないんだ。転校(てんこう)したのだってこれで三回目(さんかいめ)。そのたびに友達(ともだち)を作(つく)り直(なお)さないといけない。これが結構大変(けっこうたいへん)なんだ。
 ママみたいにはなれない。ママはどこへ行(い)ってもすぐに馴染(なじ)んでしまう。これは才能(さいのう)の一(ひと)つだわ。いつも感心(かんしん)しちゃう。私(わたし)は不器用(ぶきよう)。それに…、みんなが思(おも)っているような良(い)い子(こ)じゃない。可愛(かわい)くもないし…。私(わたし)は自分(じぶん)の顔(かお)が嫌(きら)いなんだ。この顔(かお)のせいでいつも苦労(くろう)するの。もっとブスになりたい。本当(ほんとう)の私(わたし)は違(ちが)うんだから。どこへ行(い)ってもそうなんだ。いつも自分(じぶん)を装(よそお)って、みんなが思(おも)っているようになろうとしている。自分(じぶん)を誤魔化(ごまか)して…。
 今度(こんど)だってそうなの。誰(だれ)と友達(ともだち)になれば上手(うま)くやっていけるか。まず考(かんが)えるのはこのことなの。これが今(いま)の私(わたし)の唯一(ゆいいつ)の才能(さいのう)なのかもしれない。ゆかりに近(ちか)づいたのだって、彼女(かのじょ)と友達(ともだち)になれば自分(じぶん)を守(まも)れると思(おも)ったから。…私(わたし)はずるい子(こ)なのかもしれない。
 高太郎君(こうたろうくん)の言(い)ったことが、まだ私(わたし)の中(なか)に突(つ)き刺(さ)さっている。自分(じぶん)の心(こころ)の中(なか)を見抜(みぬ)かれてしまったような、そんな気(き)がした。だから私(わたし)も…。いつもならあんなことしないのに…。あれ以来(いらい)、高太郎君(こうたろうくん)とは気(き)まずいままになってしまった。
 高太郎君(こうたろうくん)は他(ほか)の子(こ)とは違(ちが)っていた。私(わたし)を特別(とくべつ)な目(め)で見(み)ないし、馴(な)れ馴(な)れしく話(はな)し掛(か)けてくることもなかった。こんな子(こ)は初(はじ)めてかもしれない。私(わたし)もゆかりみたいになれたらいいのに。そしたらこんなカーテンなんか開(あ)けちゃって、彼(かれ)に話(はな)し掛(か)けることだって出来(でき)るのに…。もう一度(いちど)やり直(なお)せたらどんなに良(い)いか。…でも、私(わたし)のこと嫌(きら)いだったら? もしそうだったらどうしよう。
 日曜日(にちようび)、ゆかりが突然(とつぜん)やって来(き)た。いつも元気(げんき)だなぁ。悩(なや)み事(ごと)なんかないみたい。
「よっ、さくら。何(なに)してるの? せっかくの休(やす)みなのに」
「別(べつ)に…」
「何(なん)だよ、カーテン閉(し)め切(き)っちゃって。外(そと)、良(い)い天気(てんき)だぜ」
 ゆかりはカーテンを開(あ)けて、窓(まど)を全開(ぜんかい)にする。気持(きも)ちの良(い)い風(かぜ)が吹(ふ)き込(こ)んでくる。私(わたし)の心(こころ)のもやもやを晴(は)らしてくれるように。
「あれ、あいつの部屋(へや)だ。こんなに近(ちか)いんだ。ねっ、あいつと話(はな)したりしてる?」
「ううん…」
「いいなぁ、ここだったら夜遅(よるおそ)くまで喋(しゃべ)ってても怒(おこ)られないよね」
 私(わたし)はどう答(こた)えたらいいか分(わ)からなかった。ただ頷(うなず)くだけ…。
「高太郎(こうたろう)って良(い)い奴(やつ)だよ。ときどきバカやるけど。…あいつのこと嫌(きら)いになっちゃった?」
「そんなこと…」
「だったら、これから隣(となり)に行(い)かない? 鯉(こい)のぼり、見(み)に行(い)こう」
 楽(たの)しそうにそう言(い)って、私(わたし)を強引(ごういん)に連(つ)れ出(だ)そうとする。私(わたし)は突然(とつぜん)のことに動転(どうてん)して…、
「行(い)けないよ。私(わたし)、嫌(きら)われてるもん」
「そんなことないって。いいわ、私(わたし)が仲直(なかなお)りさせてあげる。もし高太郎(こうたろう)がなんか言(い)ったら、私(わたし)がぶっ飛(と)ばしてやるから」
<つぶやき>こんな頼(たの)もしい友達(ともだち)がいたら、頼(たよ)ってしまうかもしれません。私(わたし)は…。
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0060「マイホーム」

「マイホーム」(2008/12/15)

 山田(やまだ)さんは念願(ねんがん)の一戸建(いっこだ)てを購入(こうにゅう)した。とても便利(べんり)な場所(ばしょ)なのに、信(しん)じられないくらい安(やす)かったのだ。家族(かぞく)は欠陥住宅(けっかんじゅうたく)じゃないのかと心配(しんぱい)したが、物件(ぶっけん)を見(み)てみると、少(すこ)し古(ふる)いがとてもしっかりした造(つく)りになっていた。
 引(ひ)っ越(こ)しの後片付(あとかたづ)けもすんで、家族(かぞく)が寝静(ねしず)まった深夜(しんや)のこと。二階(にかい)に寝(ね)ていた山田(やまだ)さん夫婦(ふうふ)は、ガサガサという物音(ものおと)で目(め)が覚(さ)めた。その音(おと)は階下(かいか)から聞(き)こえてきていた。階段(かいだん)のところまで来(き)てみると、娘(むすめ)が下(した)を覗(のぞ)き込(こ)んでいた。
「ねえ、パパ」娘(むすめ)はひそひそと、「下(した)の電気(でんき)、ついてるみたい。泥棒(どろぼう)かな?」
 山田(やまだ)さんを先頭(せんとう)に、みんなで下(した)へ降(お)りてみた。すると、台所(だいどころ)の明(あ)かりがついていて、流(なが)しに洗(あら)い残(のこ)してあった食器(しょっき)が奇麗(きれい)に片付(かたづ)いていた。リビングに行(い)ってみると、掃除機(そうじき)がさっきまで使(つか)われていたかのように、コンセントにコードが差(さ)し込(こ)まれたままになっていた。
「誰(だれ)が出(だ)したの? 片付(かたづ)けておいたのに」奥(おく)さんが不思議(ふしぎ)そうにつぶやいた。
 一通(ひととお)り家(いえ)の中(なか)を見(み)てみたが、盗(と)られたものもなく、誰(だれ)かが侵入(しんにゅう)した形跡(けいせき)もなかった。一安心(ひとあんしん)した三人(さんにん)は、リビングに集(あつ)まった。すると、突然(とつぜん)電気(でんき)が消(き)えて真(ま)っ暗(くら)になり、娘(むすめ)が悲鳴(ひめい)をあげた。「なにか足(あし)にさわった」娘(むすめ)はそう言(い)って母親(ははおや)に抱(だ)きついた。明(あ)かりか戻(もど)ると、三人(さんにん)は目(め)を疑(うたが)った。テーブルが奇麗(きれい)に飾(かざ)られて、メッセージがおかれていたのだ。
<ようこそ。大歓迎(だいかんげい)です。これから仲良(なかよ)く暮(く)らしましょうね>
<つぶやき>謎(なぞ)の同居人(どうきょにん)、それともこの家(いえ)の精霊(せいれい)なのかな。こんな物件(ぶっけん)はいかがですか?
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1515「謎の男」

「謎(なぞ)の男(おとこ)」(2025/04/18)

 私(わたし)が友(とも)だち数人(すうにん)とお茶(ちゃ)をしていたときだった。見知(みし)らぬ男性(だんせい)が私(わたし)の前(まえ)に現(あらわ)れた。その人(ひと)は、私(わたし)の隣(となり)りに座(すわ)ると、とてもなれなれしく、まるで恋人(こいびと)のように私(わたし)の肩(かた)に手(て)をまわして、とんでもないことを口走(くちばし)った。
「ごめんねぇ。俺(おれ)、彼氏(かれし)なんだけど…。ちょっと彼女(かのじょ)に大事(だいじ)な話(はなし)があって…」
 その人(ひと)は、私(わたし)に微笑(ほほえ)みかける。でも、その視線(しせん)は、怖(こわ)いぐらい冷(つめ)たいものに感(かん)じた。
 友(とも)だちは目(め)を丸(まる)くして見(み)つめ合(あ)って…。そして、ごく普通(ふつう)の反応(はんのう)をした。
「えっ、そうなんだぁ。もう、ちっとも知(し)らなかったよ。なんで教(おし)えてくれなかったの?」
「じゃあ、そろそろ、あたしたち行(い)くね。あとは、お二人(ふたり)で…」
 友(とも)だちは、そそくさと立(た)ち上(あ)がって行(い)ってしまった。嘘(うそ)でしょ…。なんで私(わたし)をおいていくのよ。私(わたし)も立(た)ち上(あ)がろうとしたが、その人(ひと)に腕(うで)をつかまれて立(た)ち上(あ)がれない。
 その人(ひと)は、私(わたし)に言(い)った。「さて、これからどうしますか?」
 私(わたし)は即座(そくざ)に答(こた)えた。「はなしてください。私(わたし)、帰(かえ)りますから」
「そんなに冷(つめ)たくしないでよ。俺(おれ)たち、恋人(こいびと)じゃない」
「はぁ? なに言(い)ってるんですか。あなたは、いったい誰(だれ)なの?」
「それ、ききたいですか? いいですよ。じゃあ、特別(とくべつ)に教(おし)えてあげましょう。でも、それをきいちゃうと、あなた、冷静(れいせい)でいられなくなるかもしれませんよ。いいですか?」
<つぶやき>この男(おとこ)、いったい何者(なにもの)なのか。この後(あと)、とんでもない関係(かんけい)が明(あき)らかになる?
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0059「時空倶楽部」

「時空倶楽部(じくうくらぶ)」(2008/12/14)

 紗英(さえ)は大学(だいがく)の求人情報(きゅうじんじょうほう)の掲示板(けいじばん)を見(み)ていて、<時空倶楽部(じくうくらぶ)>という会社名(かいしゃめい)の求人(きゅうじん)に目(め)がとまった。詳細(しょうさい)を見(み)てみると、歴史(れきし)の資料(しりょう)を整理(せいり)する仕事(しごと)と書(か)いてあった。
 歴史好(れきしず)きの紗英(さえ)は<時空倶楽部(じくうくらぶ)>から送(おく)られてきた地図(ちず)を見(み)ながら、とあるビルの前(まえ)までやって来(き)た。そのビルは薄汚(うすよご)れていて、時代(じだい)を感(かん)じさせる建物(たてもの)だった。
「8Xって、八階(はちかい)ってことなのかな」紗英(さえ)はエレベーターを待(ま)ちながらつぶやいた。
 エレベーターに乗(の)ると、八階(はちかい)のボタンの横(よこ)に<8X>のボタンがあった。紗英(さえ)は、「何(なん)でこんなボタンが…」と思(おも)いつつも、そのボタンを押(お)してみた。
 エレベーターが開(ひら)くと、目(め)の前(まえ)に<時空倶楽部(じくうくらぶ)>のプレートがついた扉(とびら)があった。扉(とびら)を叩(たた)いて中(なか)に入(はい)ってみると、受付(うけつけ)の女性(じょせい)が待(ま)っていて、
「山本紗英(やまもとさえ)さんですね。お待(ま)ちしておりました。早速(さっそく)ですが、お仕事(しごと)をお願(ねが)いします」
「あの、私(わたし)は面接(めんせつ)に来(き)ただけで、まだ…」
「あなたは採用(さいよう)されました。あなたの仕事(しごと)は、時空(じくう)を飛(と)び越(こ)えて歴史(れきし)を壊(こわ)そうとする悪人(あくにん)から、この世界(せかい)を守(まも)ることです。必要(ひつよう)なアイテムはこのポーチの中(なか)に入(はい)っています」
「ちょっと待(ま)って下(くだ)さい。それは、どういうことですか?」
「たった今(いま)、歴史上(れきしじょう)の重要(じゅうよう)な人物(じんぶつ)が暗殺(あんさつ)されました。あなたは時間(じかん)をさかのぼって、暗殺(あんさつ)を阻止(そし)して下(くだ)さい。詳細(しょうさい)はこのカプセルに入(はい)っています。さあ、呑(の)み込(こ)んで」
<つぶやき>こんな命(いのち)がけの仕事(しごと)は考(かんが)え物(もの)ですね。でもやり甲斐(がい)はあるかもしれません。
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0058「新生日本誕生」

「新生日本誕生(しんせいにほんたんじょう)」(2008/12/13)

 涼子(りょうこ)は若(わか)くして新人賞(しんじんしょう)を受賞(じゅしょう)した女流作家(じょりゅうさっか)――。ここ一ヵ月間(いっかげつかん)、部屋(へや)にこもって仕事(しごと)をしていた。何(なん)とかきつい締切(しめきり)をこなした彼女(かのじょ)は、気分転換(きぶんてんかん)もかねて買(か)い物(もの)に出(で)かけた。
 近(ちか)くのコンビニに入(はい)った涼子(りょうこ)は、違和感(いわかん)を感(かん)じた。店員(てんいん)や客(きゃく)の話(はな)している言葉(ことば)が理解(りかい)できないのだ。まるで、外国(がいこく)に突然(とつぜん)迷(まよ)い込(こ)んでしまったような…。涼子(りょうこ)はパンやスナックなどをカゴに入(い)れレジまで持(も)って行(い)った。レジに表示(ひょうじ)された金額(きんがく)を見(み)て、涼子(りょうこ)はお金(かね)を店員(てんいん)に差(さ)し出(だ)した。すると店員(てんいん)は大声(おおごえ)をあげて、非常(ひじょう)ベルを鳴(な)らした。突然(とつぜん)のことに驚(おどろ)いた涼子(りょうこ)はおろおろするばかり。すぐに警官(けいかん)がやって来(き)て、涼子(りょうこ)は警察署(けいさつしょ)に連行(れんこう)された。
 ――取調室(とりしらべしつ)で刑事(けいじ)の訊問(じんもん)が始(はじ)まった。「この金(かね)はどうした!」
 刑事(けいじ)は涼子(りょうこ)の財布(さいふ)らかお金(かね)を出(だ)して、「円(えん)を使(つか)ったら罪(つみ)になることぐらい知(し)ってるだろ。円(えん)をどこで手(て)に入(い)れたんだ!」
 涼子(りょうこ)には、刑事(けいじ)がしゃべっている言葉(ことば)が理解(りかい)できなかった。
「私(わたし)が、何(なに)をしたっていうの? 私(わたし)は、お金(かね)を払(はら)おうと…」
 刑事(けいじ)たちは涼子(りょうこ)の言葉(ことば)を聞(き)き顔(かお)を見合(みあ)わせた。そして、何(なに)かひそひそと相談(そうだん)を始(はじ)めた。
「あんた」年長(ねんちょう)の刑事(けいじ)が日本語(にほんご)で話(はな)し始(はじ)めた。「知(し)らないのか? 日本(にほん)が変(か)わったのを…」
「変(か)わったって…。どういうこと?」
「新(あたら)しい政府(せいふ)が誕生(たんじょう)したんだ。それで、日本語(にほんご)の使用(しよう)を禁止(きんし)して、円(えん)も廃止(はいし)されたんだ」
<つぶやき>一ヵ月(いっかげつ)も閉(と)じこもっていたので、浦島太郎(うらしまたろう)状態(じょうたい)になってしまったんですね。
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0057「山の神様」

「山(やま)の神様(かみさま)」(2008/12/12)

 私(わたし)は三年(さんねん)ぶりに娘(むすめ)を連(つ)れて実家(じっか)へ帰郷(ききょう)した。――私(わたし)の故郷(ふるさと)は山(やま)の中(なか)にある小(ちい)さな村(むら)で、今(いま)でも昔(むかし)ながらの生活(せいかつ)が残(のこ)っていた。私(わたし)はまだ幼(おさな)い娘(むすめ)に、この自然(しぜん)の中(なか)での生活(せいかつ)を味(あじ)あわせてあげたかったのだ。私(わたし)の子供(こども)の頃(ころ)のように…。
「ねえ、大(おお)きな木(き)の下(した)に、変(へん)な子(こ)がいたよ」娘(むすめ)は畑(はたけ)から帰(かえ)ってくると、私(わたし)に報告(ほうこく)した。
「山(やま)の神様(かみさま)が挨拶(あいさつ)に来(き)たんだね」八十路(やそじ)を越(こ)えた祖母(そぼ)が、笑(わら)いながら娘(むすめ)の頭(あたま)をなでた。
 山(やま)の神様(かみさま)。そういえば、私(わたし)も子供(こども)の頃(ころ)に…。近所(きんじょ)の子(こ)たちと遊(あそ)んでいると、知(し)らない子(こ)がいて…。それに気(き)がつくと、いつの間(ま)にか消(き)えてしまう。そんなことが何度(なんど)かあったような…。そんな、子供(こども)の頃(ころ)の不思議(ふしぎ)な思(おも)い出(で)が残(のこ)っていた。
「明日(あした)もね、また、行(い)ってもいい?」娘(むすめ)は嬉(うれ)しそうに、「遊(あそ)ぼって、約束(やくそく)したの」
「そう。じゃあ、ママと一緒(いっしょ)に行(い)こうか」
「うん。一緒(いっしょ)に行(い)こうね」娘(むすめ)はそう言(い)うと、家(いえ)の中(なか)に駆(か)け込(こ)んでいった。
「昔(むかし)は、子供(こども)も大勢(おおぜい)いて賑(にぎ)やかだったけど…」祖母(そぼ)は農具(のうぐ)を洗(あら)いながら、「神様(かみさま)も遊(あそ)び相手(あいて)がいないから、淋(さび)しいんだろうね」とぽつりとつぶやいた。
 たしかに、この村(むら)も過疎化(かそか)で人(ひと)が減(へ)っていた。ふっと、私(わたし)の中(なか)に淋(さび)しさがこみ上(あ)げてきた。よし、明日(あした)は娘(むすめ)と一緒(いっしょ)に、山(やま)の神様(かみさま)と思(おも)う存分(ぞんぶん)遊(あそ)んであげよう。私(わたし)はそう決(き)めた。でも、私(わたし)に姿(すがた)を見(み)せてくれるかな。子供(こども)の頃(ころ)のように――。
<つぶやき>子供(こども)の頃(ころ)の純真(じゅんしん)な心(こころ)を思(おも)い出(だ)してみましょ。世界(せかい)が変(か)わるかもしれません。
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