「優(やさ)しい嘘(うそ)」(2009/05/15)
結婚(けっこん)十数年目(じゅうすうねんめ)の夫婦(ふうふ)。朝食(ちょうしょく)の情景(じょうけい)。
和子(かずこ)(お茶(ちゃ)を出(だ)して)「ねえ、昨夜(ゆうべ)も遅(おそ)かったみたいね」
孝夫(たかお)(ちょっと動揺(どうよう))「えっ…、そうだね」(ご飯(はん)を頬張(ほおば)る)
和子(夫(おっと)の前(まえ)に座(すわ)り顔色(かおいろ)をうかがいながら)「仕事(しごと)、そんなに忙(いそが)しいの?」
孝夫(ご飯(はん)をのみ込(こ)んで)「うん…、ちょっと忙(いそが)しいかな」
和子「へーえ、そうなんだ」
孝夫「なに? なんか…」
和子「別(べつ)に…。そうだ、昨夜(ゆうべ)、山田(やまだ)さんから電話(でんわ)があったわよ」
孝夫「えっ、山田(やまだ)から? なんて…」
和子「さぁ。でも、あなた、会社(かいしゃ)にいたのよね。なんで家(いえ)に電話(でんわ)してきたのかな?」
孝夫「昨日(きのう)はさ、外回(そとまわ)りしてて、直帰(ちょっき)するって言(い)っといたから。たぶんそれで…」
和子「あれーぇ。でも、山田(やまだ)さん、あなたは定時(ていじ)で帰(かえ)ったって言(い)ってたわよ」
孝夫「あれっ、おかしいな…」
中学生(ちゅうがくせい)の娘(むすめ)・あずさがあわてて飛(と)び込(こ)んで来(き)て、食卓(しょくたく)に座(すわ)る。
あずさ「お母(かあ)さん! 今日(きょう)から朝練(あされん)が始(はじ)まるから早(はや)く起(お)こしてって言(い)ったじゃないの」
和子「そうだった?」
あずさ(食事(しょくじ)を口(くち)いっぱいに入(い)れて)「もう、遅(おく)れちゃうよ。先生(せんせい)に、怒(おこ)られるんだから」
和子「遅(おそ)くまで起(お)きてるからでしょう。もっと早(はや)く寝(ね)なさいよ」
あずさ(食(た)べながら)「いろいろやりたいことがあるのよ。一日(いちにち)、三十時間(さんじゅうじかん)あったらなぁ」
孝夫(笑(わら)いながら)「それは、いくらなんでも無理(むり)だろう。(和子(かずこ)に)なあ…」
和子(かずこ)は孝夫(たかお)に冷(つめ)たい目線(めせん)を向(む)ける。孝夫(たかお)は、目(め)をそらして食事(しょくじ)をつづける。
あずさ(食(た)べ終(お)わって、口(くち)をもぐもぐさせながら)「もう、行(い)く。やばいよ」
和子「はい、お弁当(べんとう)。残(のこ)さないでよ」
あずさ「わかってるって。いつも、ありがとうね。行(い)ってきまーす」
あずさ、飛(と)び出(だ)していく。和子(かずこ)は食卓(しょくたく)に戻(もど)り、
和子「で、どこに行(い)ってたの?」
孝夫「だから、仕事(しごと)だよ。得意先(とくいさき)を回(まわ)ってて…」
和子「あなたのシャツ、いい匂(にお)いがしてたけど。誰(だれ)かと、高級料理(こうきゅうりょうり)でも食(た)べたのかな?」
孝夫「そんなことないよ。気(き)のせいだって。ははは…」
和子「あなた! 家族(かぞく)のあいだで嘘(うそ)はつかないって約束(やくそく)したよね」
孝夫「嘘(うそ)なんか…。(間(ま))わかったよ。実(じつ)は…、篠原(しのはら)のところで料理(りょうり)を習(なら)ってるんだ」
和子「篠原(しのはら)…。あなたの親友(しんゆう)で、あの高級(こうきゅう)レストランのオーナーシェフの…篠原(しのはら)さん?!」
孝夫「そうだよ。今度(こんど)の結婚記念日(けっこんきねんび)、そのレストランで、僕(ぼく)が作(つく)った料理(りょうり)を食(た)べてもらおうかなって…。もう、びっくりさせようと思(おも)ってたのになあ」
和子「えっ、ごめんなさい。私(わたし)…。あーあ、そういうことは早(はや)く教(おし)えてよ。新(あたら)しい服(ふく)、買(か)わないと。ねっ、いいでしょう? わぁ、楽(たの)しみだな。どんなドレスにしようかな…」
孝夫「いや、そこまでしなくても…。あずさも連(つ)れて行(い)くんだし」(困(こま)った顔(かお)で見(み)つめる)
<つぶやき>なんだかんだと言(い)っても、家族円満(かぞくえんまん)が一番(いちばん)ですよね。うちは大丈夫(だいじょうぶ)かな?
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