みけの物語カフェ

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0019「大切な宝物」

「大切(たいせつ)な宝物(たからもの)」(2008/11/04)

「ねえ、これはなに?」
 妻(つま)は、薄暗(うすぐら)い藏(くら)の中(なか)から私(わたし)を呼(よ)んだ。外(そと)で発掘品(はっくつひん)を整理(せいり)していた私(わたし)は、懐中電灯(かいちゅうでんとう)を手(て)に穴蔵(あなぐら)へ向(む)かった。
 実(じつ)は、崩(くず)れかけている古(ふる)い藏(くら)を取(と)り壊(こわ)すことにしたのだ。何代(なんだい)も前(まえ)の先祖(せんぞ)が建(た)てたもので、長年(ながねん)の風雨(ふうう)で痛(いた)みがひどくなり、この間(あいだ)の台風(たいふう)でとうとう壁(かべ)が崩(くず)れてしまったのだ。
 この藏(くら)にはいろんな思(おも)い出(で)がある。子供(こども)の頃(ころ)、悪(わる)さをして父親(ちちおや)に閉(と)じ込(こ)められたり、祖父(そふ)と一緒(いっしょ)に探検(たんけん)したこともあった。今思(いまおも)うと、祖父(そふ)はかなりの変(か)わり者(もの)だった。ほとんど家(いえ)にはいなかったのだ。いつも旅(たび)をしていて、突然帰(とつぜんかえ)ってくる。どんな仕事(しごと)をしているのか聞(き)いてみたことがあったが、祖父(そふ)は「わしは、探検家(たんけんか)さ」と笑(わら)っていたのを覚(おぼ)えている。
「ねえ、これすごいよ」妻(つま)は私(わたし)にほこりにまみれた小(ちい)さな箱(はこ)を見(み)せた。
「これは…」私(わたし)には見覚(みおぼ)えがあった。祖母(そぼ)が大切(たいせつ)にしていた箱(はこ)だ。でも、中(なか)に何(なに)が入(はい)っていたのか、私(わたし)には記憶(きおく)がなかった。たぶん、祖母(そぼ)が亡(な)くなってから、父(ちち)が藏(くら)にしまったのだろう。妻(つま)はそっと箱(はこ)を開(あ)けてみた。私(わたし)は懐中電灯(かいちゅうでんとう)で中(なか)を照(て)らす。
「うわっ!」妻(つま)は驚(おどろ)きの声(こえ)をあげた。「すごくきれい。ねえ、見(み)て!」
 中(なか)に入(はい)っていたのは、たくさんの絵(え)はがきだった。昔(むかし)の風景(ふうけい)や人物(じんぶつ)、花(はな)などが印刷(いんさつ)されていた。文面(ぶんめん)を見(み)ると、祖父(そふ)が祖母(そぼ)に宛(あ)てた手紙(てがみ)で、愛情込(あいじょうこ)めた言葉(ことば)がつづられていた。
<つぶやき>大切(たいせつ)な人(ひと)に、あなたは何(なに)を残(のこ)しますか? どんなものでも、それは宝物(たからもの)です。
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