みけの物語カフェ

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0021「漬ける女」

「漬(つ)ける女(おんな)」(2008/11/06)

 とある喫茶店(きっさてん)で、紗英(さえ)は悲(かな)しそうな顔(かお)をして、涙(なみだ)をこらえていた。そんな紗英(さえ)を見(み)て、親友(しんゆう)の麻美(あさみ)はあきれた顔(かお)をしてささやいた。
「もう、こんなところで泣(な)かないでよ」
「だって、あの人(ひと)ったら、私(わたし)を捨(す)てたのよ。お前(まえ)みたいな重(おも)い女(おんな)とは、もう付(つ)き合(あ)えないって」紗英(さえ)の目(め)から、ひとすじ涙(なみだ)がこぼれた。
「もう…」麻美(あさみ)はハンカチを手渡(てわた)して、「だからやめなって言(い)ったじゃない」
「私(わたし)、あの人(ひと)のために、いろいろしてあげたのよ。それなのに、それなのに…」
「紗英(さえ)はね、尽(つ)くしすぎるのよ。もっとさ、私(わたし)みたいに気楽(きらく)に…」
「あの人(ひと)ね、私(わたし)といると、漬(つけ)け物石(ものいし)を抱(だ)いてるみたいだって言(い)ったのよ」
「漬(つ)け物石(ものいし)? 今(いま)どき、そんなの使(つか)わないでしょ。けっこう、古風(こふう)な人(ひと)だったのね」
「私(わたし)もね、つい言(い)っちゃったの。あなたみたいなフニャフニャで、野沢菜(のざわな)みたいな人(ひと)…」
「へーえ、言(い)っちゃったんだ。紗英(さえ)、それでいいんだよ。あんな男(おとこ)なんて忘(わす)れなよ」
「私(わたし)が、野沢菜(のざわな)って言(い)ったから、嫌(きら)われたのよ。きっとそうよ。それで、出(で)てけって…」
「もう。別(わか)れた男(おとこ)のことで、イジイジしないの。スッパリと忘(わす)れなきゃ。いいわ、私(わたし)がもっといい男(おとこ)、見繕(みつくろ)ってあげる。そうね、歯(は)ごたえのありそうな、カブみたいな人(ひと)とか…」
 紗英(さえ)はすごい形相(ぎょうそう)で睨(にら)みつける。麻美(あさみ)は殺気(さっき)を感(かん)じて、「もう、冗談(じょうだん)だってば…」
<つぶやき>こんな一途(いちず)な人(ひと)もいるんですよ。今度(こんど)は素敵(すてき)な人(ひと)と出会(であ)えるといいですね。
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