「戦場(せんじょう)の架(か)け橋(はし)」(2008/11/17)
とある有名(ゆうめい)ホテルで創業三十周年(そうぎょうさんじゅっしゅうねん)のパーティが開(ひら)かれていた。各界(かっかい)の名士(めいし)が招待(しょうたい)され、その子女(しじょ)の方々(かたがた)も奇麗(きれい)に着飾(きかざ)り花(はな)を添(そ)えた。このパーティ、ホテルの御曹司(おんぞうし)の結婚相手(けっこんあいて)を見(み)つける目的(もくてき)もあった。だから、お嬢(じょう)さまたちの力(ちから)の入(い)れようといったら、すごいものだった。御曹司(おんぞうし)が現(あらわ)れたとたん、水面下(すいめんか)で壮絶(そうぜつ)なバトルが繰(く)り広(ひろ)げられた。わざとぶつかってドレスを汚(よご)したり、御曹司(おんぞうし)に近(ちか)づこうとする女性(じょせい)の足(あし)を引(ひ)っかけて転(ころ)ばせたり、まるで戦場(せんじょう)である。
その戦場(せんじょう)の中(なか)で一人(ひとり)だけ、御曹司(おんぞうし)には目(め)もくれず黙々(もくもく)と食事(しょくじ)を楽(たの)しんでいる女性(じょせい)がいた。彼女(かのじょ)は、隅(すみ)の方(ほう)で淋(さび)しげに座(すわ)っている娘(むすめ)に気(き)がついて声(こえ)をかけた。
「ねえ、これ美味(おい)しいよ」とご馳走(ちそう)を盛(も)った皿(さら)を差(さ)し出(だ)した。娘(むすめ)はそれを受(う)け取(と)り、
「あ、ありがとうございます」娘(むすめ)は悲(かな)しさを隠(かく)すように微笑(ほほえ)んだ。
「あら、大変(たいへん)。ドレスが汚(よご)れちゃってるわ。あなた、もう諦(あきら)めちゃうの?」
「私(わたし)は、そんなんじゃないんです。ただの友(とも)だちで…。大学(だいがく)で知(し)り合(あ)っただけで…」
「そう。あいつが呼(よ)んだんだ。ふーん、何(なん)か分(わ)かる気(き)がするな。いいわ、私(わたし)が呼(よ)んであげる」彼女(かのじょ)はそう言(い)うと、大声(おおごえ)で御曹司(おんぞうし)を呼(よ)びつけて、「ダメでしょ。彼女(かのじょ)をひとりにさせて」
「姉(ねえ)さん、大声出(おおごえだ)さないでよ。仕方(しかた)ないだろ、動(うご)けなかったんだから」
「さあ、これでいいわ。後(あと)は二人(ふたり)で楽(たの)しみなさい。じゃあねぇ」
<つぶやき>こんな小粋(こいき)なお姉(ねえ)さんがいてくれると、ちょっと楽(たの)しいかもしれませんね。
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