みけの物語カフェ

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0034「幻の美容師」

「幻(まぼろし)の美容師(びようし)」(2008/11/19)

「ねえ、本当(ほんとう)にここなの?」ブランド品(ひん)で着飾(きかざ)った娘(むすめ)がささやいた。
「はい、お嬢様(じょうさま)」と付(つ)き人(びと)の娘(むすめ)が答(こた)えて、「ここで間違(まちが)いないはずです」
 そこは薄汚(うすよご)れたビルの一階(いっかい)にある美容室(びようしつ)だった。上流階級(じょうりゅうかいきゅう)の女性(じょせい)の間(あいだ)で、幻(まぼろし)の美容師(びようし)がいると噂(うわさ)されていたのだ。二人(ふたり)が中(なか)に入(はい)ってみると、外観(がいかん)とはまったく違(ちが)っていた。店(みせ)の中(なか)は奇麗(きれい)に整(ととの)えられ、髪(かみ)の毛(け)一本(いっぽん)も落(お)ちてはいなかった。店主(てんしゅ)は二人(ふたり)を無愛想(ぶあいそう)に迎(むか)えた。
「あの…」付(つ)き人(びと)はいかめしい顔(かお)の店主(てんしゅ)に声(こえ)をかけ、「こちらに幻(まぼろし)の美容師(びようし)がいると…」
「さあね…。どうするんだ。やるのか、やらないのか」男(おとこ)は客(きゃく)を見(み)ようともしなかった。
「もちろん、お願(ねが)いするわ」お嬢様(じょうさま)は鏡(かがみ)の前(まえ)に座(すわ)ると、「この雑誌(ざっし)に載(の)っている髪型(かみがた)にしてちょうだい」
 お嬢様(じょうさま)の目配(めくば)せで、付(つ)き人(びと)が雑誌(ざっし)を開(ひら)き男(おとこ)の前(まえ)に差(さ)し出(だ)した。
 男(おとこ)はそれをちらっと見(み)て、「やめときな。あんたには、今(いま)のままがお似合(にあ)いだ」
「それ、どういう意味(いみ)!」お嬢様(じょうさま)は立(た)ちあがり男(おとこ)を睨(にら)みつけた。だが男(おとこ)は気(き)にもとめず、付(つ)き人(びと)の顔(かお)をじっと見(み)つめて、「あんた、いい顔(かお)してるな。もっと奇麗(きれい)になりたくないか?」
 付(つ)き人(びと)の娘(むすめ)は、男(おとこ)の迫力(はくりょく)におされて思(おも)わずうなずいた。すると男(おとこ)は有無(うむ)も言(い)わせず娘(むすめ)を座(すわ)らせ仕事(しごと)にとりかかった。男(おとこ)の手(て)さばきは軽(かろ)やかで、無駄(むだ)がなかった。あっという間(ま)に仕事(しごと)を終(お)わらせた。驚(おどろ)いたことに、鏡(かがみ)に映(うつ)った娘(むすめ)の顔(かお)は、まるで天使(てんし)が舞(ま)い降(お)りたようだった。
<つぶやき>誰(だれ)かの真似(まね)をするのはやめにして、あるがままの自分(じぶん)を見(み)つめてみませんか?
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