「昔(むかし)みたいに」(2008/11/25)
一人娘(ひとりむすめ)を送(おく)り出(だ)した夫婦(ふうふ)が、テーブルをはさみお茶(ちゃ)をすすっていた。
「綾佳(あやか)、きれいだったなぁ。今日(きょう)は天気(てんき)もよかったし、いい一日(いちにち)だった」
「そうですね。あの娘(こ)がこんなに早(はや)く結婚(けっこん)するなんて、思(おも)ってもみませんでしたよ」
「そうだな。でも、遅(おそ)いよりはいいさ。この家(いえ)も淋(さび)しくなるなぁ」
「なに言(い)ってるんですか。近(ちか)いんですから、ちょくちょく帰(かえ)って来(き)ますよ」
「そうかなぁ」夫(おっと)は嬉(うれ)しそうにしたが、
「でも、そうたびたび帰(かえ)って来(く)るのは、まずいだろ」
「ふふ…」妻(つま)は思(おも)い出(だ)し笑(わら)いをして、「覚(おぼ)えてます? なんて私(わたし)にプロポーズしたのか」
「えっ、何(なん)だよ急(きゅう)に…」夫(おっと)は目(め)をそらし、お茶(ちゃ)をすすった。
「ほら、披露宴(ひろうえん)のときにそんな話(はなし)が出(で)たじゃないですか。それで、思(おも)い出(だ)したんですよ」
「そんな話(はなし)はいいじゃないか。それより、どうしてるかな綾佳(あやか)は…」
「あなた、私(わたし)にこう言(い)ったんですよ。俺(おれ)は君(きみ)と――」
「もういいよ、そんな昔(むかし)の話(はな)しは。俺(おれ)は、もう忘(わす)れたよ」
「ああ、ずるい。都合(つごう)の悪(わる)いことはすぐ忘(わす)れるんだから」
「でもな、一(ひと)つだけ覚(おぼ)えてるぞ。新婚旅行(しんこんりょこう)のとき、かあさんと始(はじ)めて泊(と)まった旅館(りょかん)で…」
「まだ覚(おぼ)えてたんですか? いやだわ。そうだ、また二人(ふたり)で旅行(りょこう)に行(い)きましょうよ。ねっ」
<つぶやき>たまには夫婦(ふうふ)で昔(むかし)の話(はな)しをしてみませんか? ちょっと気恥(きは)ずかしいかも。
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