「いつか、あの場所(ばしょ)で…」(2009/04/30)
「初(はじ)めの一歩(いーっぽ)」3
彼女(かのじょ)が僕(ぼく)の家(いえ)の前(まえ)を通(とお)り過(す)ぎたとき、彼女(かのじょ)との距離(きょり)十(じゅう)メートル。僕(ぼく)の頭(あたま)の中(なか)はどう呼(よ)び止(と)めようか、それしかなかった。
声(こえ)をかけようとしたその瞬間(しゅんかん)、彼女(かのじょ)は僕(ぼく)の視界(しかい)から……消(き)えた? 僕(ぼく)はその場(ば)に立(た)ちつくした。彼女(かのじょ)の消(き)えた先(さき)は…、隣(となり)の家(いえ)!? 僕(ぼく)は急(いそ)いで家(いえ)に飛(と)び込(こ)んで…、
「ねえ、母(かあ)さん! 隣(となり)に引(ひ)っ越(こ)してきた人(ひと)ってさぁ…」
「ただいまでしょう。なに慌(あわ)ててるの?」
「あっ、ただいま。だから、隣(となり)の人(ひと)って…」
「上野(うえの)さんよ。娘(むすめ)さんがあんたと同(おな)じクラスになったんだって?」
「そんな…」
「あれ、知(し)らなかったの?」
「だって、会(あ)ったことないし…」
「いつもぎりぎりじゃない家(いえ)を出(で)るの。隣(となり)の子(こ)なんか余裕(よゆう)で出(で)かけてるわよ」
「なんで教(おし)えてくれなかったんだよ」
「仲良(なかよ)くしてあげなさい。お隣(となり)さんなんだから。そうだ。呼(よ)びに来(き)てもらおうか?」
「止(や)めてくれよ。そんな…」
「あんな可愛(かわい)い子(こ)が来(き)てくれたら、あんたの遅刻(ちこく)もなくなるかもね」
「絶対(ぜったい)だめ! そんなこと…」
「なにむきになってるの?」
僕(ぼく)はそれ以上(いじょう)なにも言(い)えなかった。階段(かいだん)を駆(か)け上(あ)がり自分(じぶん)の部屋(へや)へ。なんで今(いま)まで気(き)づかなかったんだろう。ゆかりは知(し)ってたんだ。あの笑顔(えがお)はこういうことだったんだ。明日(あした)、笑(わら)いのネタにされる。みんなの笑(わら)いものだ。僕(ぼく)は腹立(はらだ)ち紛(まぎ)れにカーテンを開(あ)ける。
えっ…! 彼女(かのじょ)だ。彼女(かのじょ)がこっちを見(み)ていた?
僕(ぼく)は慌(あわ)てて隠(かく)れる。なんで隠(かく)れるんだよ。…あそこが彼女(かのじょ)の部屋(へや)なんだ。…そっと外(そと)を見(み)る。彼女(かのじょ)のいた窓(まど)には、カーテンが…。
僕(ぼく)はこの偶然(ぐうぜん)を手放(てばな)しで喜(よろこ)べなかった。あんなことがなかったら…。僕(ぼく)はまたしても落(お)ち込(こ)んだ。
…ちょっと待(ま)てよ。隣(となり)に彼女(かのじょ)がいるってことは、ひょっとするとチャンスかも。学校(がっこう)で駄目(だめ)なら、ここがあるじゃない。ここだったらゆっくり話(はなし)が出来(でき)るし、僕(ぼく)のこと分(わ)かってもらえるかも…。そう思(おも)ったら、なんだか心(こころ)が軽(かる)くなった。
僕(ぼく)は彼女(かのじょ)の窓(まど)をいつまでも見(み)つめていた。カーテンが開(ひら)きますように、彼女(かのじょ)が出(で)て来(き)ますように。そう心(こころ)の中(なか)でつぶやきながら…。
<つぶやき>灯台下暗(とうだいもとくら)しってやつですか。よくあること(?)ですよね。ははは…。
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