「音信不通(おんしんふつう)」(2008/11/28)
人通(ひとどお)りの多(おお)い繁華街(はんかがい)を歩(ある)いていた淳史(あつし)は、一人(ひとり)の女(おんな)に目(め)をとめて凍(こお)りついた。彼(かれ)の手(て)は震(ふる)え、呼吸(こきゅう)は荒(あら)くなり、たまらずその場(ば)から逃(に)げだした。繁華街(はんかがい)の通(とお)りを離(はな)れ、人気(ひとけ)のない脇道(わきみち)に足(あし)を踏(ふ)み入(い)れた淳史(あつし)は、
「まさか、そんな…」荒(あら)い息(いき)でつぶやいた。
彼(かれ)は後(うし)ろを振(ふ)り返(かえ)ると、息(いき)を呑(の)んだ。そこには、さっきの女(おんな)が立(た)っていたのだ。その女(おんな)はかすかに微笑(ほほえ)んで、淳史(あつし)の方(ほう)へ近(ちか)づきながら、「やっと、見(み)つけたわ」
「一恵(かずえ)…一恵(かずえ)…」淳史(あつし)は口(くち)の中(なか)でそう繰(く)り返(かえ)すと、また駆(か)け出(だ)した。どこをどう走(はし)ったのか、いつの間(ま)にか墓場(はかば)の中(なか)に入(はい)り込(こ)んでいた。淳史(あつし)は驚(おどろ)き、へたり込(こ)んでしまった。
淳史(あつし)はふと、目(め)の前(まえ)の墓石(はかいし)に目(め)をやった。そこには<磯崎(いそざき)>と刻(きざ)まれていた。
「ねえ、返(かえ)して」突然(とつぜん)、女(おんな)の声(こえ)が耳(みみ)に飛(と)び込(こ)んで来(き)た。淳史(あつし)は驚(おどろ)き振(ふ)り返(かえ)った。そこにはあの女(おんな)が、淳史(あつし)を見下(みお)ろしていた。女(おんな)は、「早(はや)く返(かえ)してよ!」と叫(さけ)んだ。
「ごめん、ごめんなさい」淳史(あつし)は震(ふる)える声(こえ)で、「あれは、もう…」
「まさか、捨(す)てたとか…」女(おんな)は淳史(あつし)の胸倉(むなぐら)をつかみ、「言(い)うんじゃないでしょうね」
「いや、捨(す)てたわけじゃ…ないけど…」淳史(あつし)は苦(くる)し紛(まぎ)れにへらへらと笑(わら)った。
「あの女(おんな)か…」女(おんな)は淳史(あつし)に顔(かお)を近(ちか)づけて、「やっぱり、あの女(おんな)に渡(わた)したのね!」
女(おんな)は淳史(あつし)の腕(うで)を抱(かか)え込(こ)み、彼(かれ)を引(ひ)きずるようにいずこともなく去(さ)って行(い)った。
<つぶやき>彼(かれ)が何(なに)をしでかして、この後(あと)どうなったのか…。ご想像(そうぞう)におまかせします。
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