「リセット」(2008/11/29)
ベッドの上(うえ)で若(わか)い女性(じょせい)が死(し)を迎(むか)えようとしていた。彼女(かのじょ)の手(て)を優(やさ)しく握(にぎ)りしめている若(わか)い男(おとこ)。男(おとこ)は彼女(かのじょ)のそばから離(はな)れようとせず、励(はげ)まし続(つづ)けていた。
「あなた…」女(おんな)は苦(くる)しい息(いき)をついて、「私(わたし)は…、あなたに出会(であ)えて、幸(しあわ)せでした」
「僕(ぼく)もだよ。きっと元気(げんき)になるから…」
男(おとこ)は胸(むね)が詰(つ)まり、それ以上(いじょう)なにも言(い)えなくなった。
「ありがとう」女(おんな)は最後(さいご)にそう言(い)い残(のこ)すと、目(め)を閉(と)じ動(うご)かなくなった。男(おとこ)は彼女(かのじょ)にすがりつき、泣(な)き明(あ)かした。
朝(あさ)になると、どこからか声(こえ)が聞(き)こえてきた。「リセットしますか?」
男(おとこ)はそれに答(こた)えて、「そうだな、今度(こんど)はもう少(すこ)し寿命(じゅみょう)を延(の)ばしてくれないか?」
「その要望(ようぼう)にはお答(こた)えできません。病気(びょうき)などの発病(はつびょう)は、無作為(むさくい)に決(き)められています」
「分(わ)かったよ。なら、容姿(ようし)と年齢(ねんれい)は今(いま)のままでリセットしてくれ」
女(おんな)の腕(うで)につながれていたケーブルが自動的(じどうてき)にはずされて、彼女(かのじょ)は目(め)を覚(さ)ました。
「あなた、おはよう。今日(きょう)は、早(はや)いのね」女(おんな)は起(お)き上(あ)がり、「朝食(ちょうしょく)は何(なに)がいい?」
「そうだな。今日(きょう)は、和食(わしょく)がいいなぁ」男(おとこ)はそう言(い)うと、女(おんな)にキスをした。
食事(しょくじ)ができる間(あいだ)に男(おとこ)は新聞(しんぶん)を読(よ)み、いつもと変(か)わらぬ一日(いちにち)が始(はじ)まった。部屋(へや)の丸窓(まるまど)から外(そと)を見(み)ると、真(ま)っ暗(くら)な世界(せかい)が広(ひろ)がり、眼下(がんか)には茶色(ちゃいろ)く濁(にご)った地球(ちきゅう)が浮(う)かんでいた。
「僕(ぼく)も手伝(てつだ)うよ」男(おとこ)は席(せき)を立(た)って腕(うで)まくりをした。その腕(うで)にはプラグが付(つ)いていた。
<つぶやき>人(ひと)の人生(じんせい)は一度(いちど)きりしかありません。悔(く)いのないように過(す)ごしたいものです。
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