みけの物語カフェ

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0055「後ろ姿に恋した男」

「後(うし)ろ姿(すがた)に恋(こい)した男(おとこ)」(2008/12/10)

 小間物屋(こまものや)の若旦那(わかだんな)が寝込(ねこ)んでしまった。医者(いしゃ)を呼(よ)んで診(み)てもらっても、どこも悪(わる)いところはないと言(い)われるばかり。――そこで若旦那(わかだんな)によくよく話(はなし)を聞(き)いてみると、恋(こい)わずらいだと判明(はんめい)した。神社(じんじゃ)の祭礼(さいれい)で見(み)かけた娘(むすめ)のことが忘(わす)れられず、苦(くる)しくて食事(しょくじ)も喉(のど)を通(とお)らない始末(しまつ)。そこで、八方手(はっぽうて)を尽(つ)くしてその娘(むすめ)を捜(さが)そうとしたのだが、顔(かお)が分(わ)からない。若旦那(わかだんな)は後(うしろ)ろ姿(すがた)しか見(み)ていなかったのだ。考(かんが)えあぐねた主人(しゅじん)は、町内(ちょうない)の火消(ひけ)しの棟梁(とうりよう)に相談(そうだん)した。
 棟梁(とうりょう)は、それならばと、町内(ちょうない)の娘(むすめ)を集(あつ)めて、後(うしろ)ろ姿(すがた)のお見合(みあ)いをさせることになった。それを聞(き)きつけた町内(ちょうない)の娘(むすめ)たちは、我(われ)も我(われ)もと集(あつ)まってきて、店(みせ)の中(なか)はてんてこ舞(ま)いになってしまった。でも、あらかた見合(みあ)いが終(お)わっても、目当(めあ)ての娘(むすめ)は見(み)つからなかった。
 そこへ小間使(こまづか)いの娘(むすめ)がお茶(ちゃ)を持(も)って入(はい)って来(き)た。若旦那(わかだんな)はその娘(むすめ)の後(うしろ)ろ姿(すがた)を見(み)たとたん、「あーっ、これだ!」
 その声(こえ)に驚(おどろ)いたのは小間使(こまづか)いの娘(むすめ)。奉公(ほうこう)にあがったばかりだったので、何(なに)かそそうをしたのかと小(ちい)さくなってしまった。主人(しゅじん)は娘(むすめ)を呼(よ)び寄(よ)せて、
「おさと、お前(まえ)、神社(じんじゃ)の祭礼(さいれい)に行(い)ったのかい?」
「はい、お嬢(じょう)さんのお供(とも)で…。すいません、あたし、お嬢(じょう)さんのお着物(きもの)を着(き)て…」
「いいんだよ。おさと、これから毎朝(まいあさ)、後(うしろ)ろ姿(すがた)をこいつに見(み)せてやってくれないか」
<つぶやき>この若旦那(わかだんな)は、うぶなんです。でも、こんなこと言(い)われても困(こま)りますよね。
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