「早(はや)とちり」(2008/12/18)
みそらはサークルの先輩(せんぱい)の佐々木君(ささきくん)が好(す)きだった。彼女(かのじょ)の片思(かたおも)いなのだが――。今夜(こんや)はそのサークル仲間(なかま)が忘年会(ぼうねんかい)ということで居酒屋(いざかや)に集(あつ)まり、いつものように大騒(おおさわ)ぎになっていた。でも、みそらは佐々木君(ささきくん)がまだ来(き)ていないので、少(すこ)ししょげて一人(ひとり)で飲(の)んでいた。
みそらはいつの間(ま)に眠(ねむ)ってしまったのか、気(き)がついたときには誰(だれ)もいなくなっていた。
「あれ、どうして…」みそらがきょろきょろしていると、佐々木君(ささきくん)がやって来(き)てみそらの前(まえ)に座(すわ)り、「みそらちゃん、僕(ぼく)は君(きみ)のことが…」佐々木君(ささきくん)の熱(あつ)い眼差(まなざ)し…。みそらは直感(ちょっかん)で、告白(こくはく)されると感(かん)じた。そして、彼(かれ)の顔(かお)が近(ちか)づいてきて――。
「ちょっと。しっかりしなさいよ」声(こえ)をかけたのは、みそらの親友(しんゆう)の沙織(さおり)だった。
「あれ、みんな帰(かえ)ったんじゃ…」みそらは夢(ゆめ)だと気(き)づき、恥(は)ずかしくなって顔(かお)を赤(あか)らめた。
「ウソ。もしかして、酔(よ)っぱらってるの」沙織(さおり)はみそらの顔(かお)を覗(のぞ)き込(こ)み、「信(しん)じられない」
そこへサークル仲間(なかま)が駆(か)け込(こ)んできて、「おい、佐々木(ささき)が事故(じこ)にあったって…」
忘年会(ぼうねんかい)はすぐにお開(ひら)きになり、みんなで病院(びょういん)に駆(か)けつけた。みそらは、いても立(た)ってもいられなかった。病院(びょういん)に入(はい)ってみると、佐々木君(ささきくん)は待合室(まちあいしつ)に座(すわ)っていた。
「佐々木先輩(ささきせんぱい)!」まっ先(さき)に駆(か)け寄(よ)ったのはみそらだった。腕(うで)に包帯(ほうたい)を巻(ま)いた佐々木君(ささきくん)は驚(おどろ)いた顔(かお)をして、「みんな、どうしたんだ。忘年会(ぼうねんかい)、終(お)わったのか?」
佐々木君(ささきくん)は自転車(じてんしゃ)とぶつかっただけだった。みそらは引(ひ)っ込(こ)みがつかなくなっていた。
<つぶやき>誰(だれ)かさんの早(はや)とちりでこんなことに…。でもね、これで距離(きょり)が縮(ちぢ)まるかもよ。
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