みけの物語カフェ

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0001「怪事件ファイル」1

「怪事件(かいじけん)ファイル」1(2009/05/12)

 「蜘蛛(くも)の糸(いと)」1
「いい加減(かげん)に本当(ほんとう)のことを言(い)いなさいよ!」
 取調室(とりしらべしつ)に若(わか)い女刑事(おんなけいじ)の声(こえ)が響(ひび)いた。容疑者(ようぎしゃ)とおぼしき男(おとこ)は困(こま)った顔(かお)をして、「だから、さっきから違(ちが)うって言(い)ってるじゃないですか」
 女刑事(おんなけいじ)は机(つくえ)を叩(たた)き、「じゃあ、なんであんなところにいたの!」と男(おとこ)の顔(かお)を覗(のぞ)き込(こ)んだ。しかし、男(おとこ)はまったく動(どう)じる気配(けはい)もなく、「刑事(けいじ)さん、化粧(けしょう)とかちゃんとした方(ほう)がいいですよ。美人(びじん)の顔立(かおだ)ちなんだから…」と優(やさ)しい笑顔(えがお)で答(こた)えた。
 女刑事(おんなけいじ)の怒(いか)りが頂点(ちょうてん)に達(たっ)したとき、ドアが開(あ)いて年配(ねんぱい)の刑事(けいじ)が顔(かお)を出(だ)した。
「おい、いちご。容疑者(ようぎしゃ)を捕(つか)まえたって、本当(ほんとう)か?」
「はい、係長(かかりちょう)。この男(おとこ)です。現場(げんば)をうろついていたので連行(れんこう)してきました」
「そうか」年配(ねんぱい)の刑事(けいじ)はそう言(い)うと、容疑者(ようぎしゃ)の顔(かお)を見(み)て驚(おどろ)きの声(こえ)をあげた。
「山田(やまだ)さんじゃないですか! いつ日本(にほん)に帰(かえ)ってこられたんですか?」
「あっ、お久(ひさ)しぶりです。お元気(げんき)でしたか?」男(おとこ)はにこやかに刑事(けいじ)と握手(あくしゅ)をかわした。
 女刑事(おんなけいじ)は思(おも)いもよらない展開(てんかい)にうろたえて、「あの、係長(かかりちょう)。この人(ひと)は…」
「ばかもん! この人(ひと)はな、もと警視庁捜査一課(けいしちょうそうさいっか)の…」
「あの、その話(はなし)は」山田(やまだ)は係長(かかりちょう)の話(はなし)をさえぎり、「変死体(へんしたい)が見(み)つかったそうですね」
「そうなんですよ」係長(かかりちょう)は困(こま)り果(は)てた様子(ようす)で、「お知恵(ちえ)を拝借(はいしゃく)できませんかね」
「係長(かかりちょう)、なんでこんな人(ひと)に…」女刑事(おんなけいじ)は不服(ふふく)そうに抗議(こうぎ)した。
 変死体(へんしたい)が見(み)つかったのは四日前(よっかまえ)で、河原(かわら)の清掃(せいそう)をしていた近(ちか)くの住民(じゅうみん)が発見(はっけん)した。被害者(ひがいしゃ)の身元(みもと)は所持品(しょじひん)からすぐに判明(はんめい)し、一週間前(いっしゅうかんまえ)までの生存(せいぞん)が確認(かくにん)された。係長(かかりちょう)が頭(あたま)を悩(なや)ましている原因(げんいん)は、死体(したい)が普通(ふつう)の状態(じょうたい)ではなく、ミイラ化(か)していたからだ。一週間前(いっしゅうかんまえ)まで生(い)きていた人間(にんげん)が、ミイラになるはずがなかった。
 山田(やまだ)は捜査資料(そうさしりょう)を一通(ひととお)り見終(みお)わると、「なるほど」とつぶやいて、「被害者(ひがいしゃ)の趣味(しゅみ)は?」
「趣味(しゅみ)!?」女刑事(おんなけいじ)はあきれて聞(き)き返(かえ)したが、「そう言(い)えば、山(やま)の写真(しゃしん)とかありましたから、登山(とざん)とか、ハイキングじゃないんですか」
「北陸(ほくりく)の雲里村(くもさとむら)には行(い)ってませんか?」
「趣味(しゅみ)が事件(じけん)に関係(かんけい)あるんですか?」女刑事(おんなけいじ)はそう言(い)うと、被害者(ひがいしゃ)のパソコンに残(のこ)されていた日記(にっき)を調(しら)べ始(はじ)めた。すると、ちょうど一年前(いちねんまえ)に訪(おとず)れていることが記(しる)されていた。
「じゃあ、明日(あした)、そこへ行(い)ってみましょう。きっと、何(なに)か分(わ)かるはずです」
「私(わたし)も? いや、私(わたし)は仕事(しごと)がありますから、無理(むり)ですよ」
「そうですか…。では、僕(ぼく)はこれで」そう言(い)って山田(やまだ)は部屋(へや)を出(で)た。でもすぐに戻(もど)ってきて、「お名前(なまえ)をうかがってもいいですか? 僕(ぼく)は、山田太郎(やまだたろう)と言(い)います。よく、偽名(ぎめい)じゃないかとか言(い)われますけど、本名(ほんみょう)なんですよ。よろしく」そう言(い)うと山田(やまだ)は手(て)を差(さ)し出(だ)した。
 女刑事(おんなけいじ)はちょっと戸惑(とまど)ったが、「私(わたし)は野原(のはら)です」と挑戦的(ちょうせんてき)な態度(たいど)で山田(やまだ)をにらみ返(かえ)した。
「野原(のはら)いちごさんですか。いいお名前(なまえ)ですね」と山田(やまだ)はにこやかに笑顔(えがお)をむけた。
「どうして…」女刑事(おんなけいじ)は驚(おどろ)きの声(こえ)を上(あ)げた。そして、みるみる顔(かお)が赤(あか)くなり、
「バカにしないでよ!」と叫(わめ)くと、そのまま部屋(へや)から飛(と)び出(だ)して行(い)た。
<つぶやき>新人(しんじん)のときは、張(は)り切(き)りすぎちゃうんです。失敗(しっぱい)を恐(おそ)れないでね。
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