「まだ早(はや)い」(2011/04/09)
「あかり、風呂(ふろ)入(はい)るぞ」泰造(たいぞう)は愛娘(まなむすめ)と過(す)ごすこの時間(じかん)を、何(なに)よりも楽(たの)しみにしていた。
いつものあかりだったら喜(よろこ)んで父親(ちちおや)に駆(か)け寄(よ)って行(い)くのだが、今日(きょう)はどうも様子(ようす)が違(ちが)う。泰造(たいぞう)から隠(かく)れるように、母親(ははおや)の恵理(えり)の後(うし)ろにくっついた。
「どうした? パパ、先(さき)に入(はい)っちゃうぞ」
「いいもん」あかりは半分(はんぶん)顔(かお)を覗(のぞ)かせて言(い)った。「あかり、ともくんがいい」
「ともくん?」泰造(たいぞう)は首(くび)を傾(かし)げて恵理(えり)に訊(き)いた。
「誰(だれ)のことだよ、えっ?」
「ほら、この間(あいだ)、近所(きんじょ)に引(ひ)っ越(こ)してきた吉村(よしむら)さんとこの…」
「聞(き)いてないよ、そんなこと」泰造(たいぞう)はムッとして言(い)った。
「そうだった? 何(なん)か、すっごく仲良(なかよ)しになっちゃって」理恵(りえ)は楽(たの)しそうにあかりに声(こえ)をかけた。「ねっ、あかり。ラブラブだよねぇ」
「うん、ラブラブだよねっ」
「冗談(じょうだん)じゃないよ」泰造(たいぞう)は顔色(かおいろ)を変(か)えてあかりに駆(か)け寄(よ)り、
「お前(まえ)には、まだ早(はや)い。何(なに)が、ラブラブだよ。パパは絶対(ぜったい)に…」
「あなた、なに言(い)ってるのよ。あかり、怖(こわ)がってるでしょ」
「お前(まえ)も、お前(まえ)だ。何(なん)で、そんな男(おとこ)と遊(あそ)ばせるんだ。それでも、母親(ははおや)か」
「もう、いい加減(かげん)にして。あかりはまだ幼稚園(ようちえん)よ。今(いま)から、そんなこと言(い)ってどうするの」
<つぶやき>父親(ちちおや)にとって、娘(むすめ)は特別(とくべつ)な存在(そんざい)なのかもしれません。でも、ほどほどにね。
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